伊豆食べる通信 2024年10月号

「由良早生」

沼津市西浦は、駿河湾を見下ろす山の斜面に広がる、温州系みかんの名産地。江戸時代から450年以上続くみかん栽培の歴史を受け継ぐこの地で、仲屋海瀬農園21代目の海瀬陽奈さんは、丁寧な手仕事で希少品種「由良早生(ゆらわせ)」の栽培に力を注いでいる。

由良早生は、和歌山県由良町原産の早生種で、糖度の高い濃厚な味わいが魅力。しかし栽培が難しく、生産者は限られている。陽奈さんの農園では、2000kgほどの由良早生を生産するほか、寿太郎、石地などの品種も育てており、中でも石地は県の農林まつりで表彰されるほどの実力を誇る。

畑は2.5ヘクタールに及び、分散した斜面での栽培管理は決して楽ではない。特に味に直結する摘果作業は、1本1本の木を丁寧に見て実を間引く根気のいる作業。酷暑によるカメムシの発生や病害虫への対応も欠かせず、日々のみかんの様子を見ながら、地道な管理を続けている。

農業を継いだ背景には、幼い頃から祖父母と過ごした畑での思い出がある。一度は他の仕事に就いたが、高齢の祖父母を支えたい、そして江戸後期から続く家と農園を守りたいという強い思いから帰郷。2022年4月に正式に農園を継承し、家族や地域と共に歩むみかん農家としての道を進んでいる。

地域とのつながりも深く、毎年7月の「河内の天王祭り」では家に神輿が奉納されるなど、土地の文化とも一体になった暮らしを営む陽奈さん。みかんづくりのやりがいは、「美味しい」と言ってもらえる瞬間だという。その言葉が励みになり、また来年もより良いみかんを育てようという情熱へとつながっていく。

目指すのは農地の拡大ではなく、特定の品種の品質向上と流通の拡大。伝統を守りながらも未来を見据え、自らのスタイルでみかんと向き合う陽奈さんの姿は、西浦の誇りそのものである。

仲屋海瀬農園のみかんを買いたい

仲屋海瀬農園

仲屋海瀬農園では、年間を通じて様々な柑橘類が楽しめます。主な品種とその特徴を紹介します。ネットショッピングで購入可能なので、是非季節ごと旬の蜜柑をお楽しみください。

【仲屋海瀬農園】

住所:静岡県沼津市西浦河内171-1
URL:https://nakaya-kaisefarm.com/
Instagram:https://www.instagram.com/paccuncyo222/
EC:https://www.cleanandsimple.jp/

【仲屋海瀬農園で獲れる柑橘類 一例】
・日南(にちなん)(9月)
 収穫時期が最も早く、さわやかな香りと軽やかな甘みが特長。

・由良(ゆら)(10月〜)
 外皮が薄くジューシーで、濃厚な甘みとコクが魅力の希少種。

・石地(いしじ)(12月〜)
 糖度が高く、丸みのある形が特徴。樹上で完熟させるこだわりの一品。

・寿太郎(じゅたろう)(1月〜)
 西浦を代表する高級みかん。濃厚な甘みと酸味の絶妙なバランス。

・ネーブル/不知火(しらぬい)
 濃厚な味わいのネーブルと、甘み豊かな不知火(デコポン)は贈答にも人気。

・西浦れもん・レモネード
 爽やかな香りと果汁たっぷりの西浦れもん、やさしい酸味のレモネードも人気。

国登録有形文化財 海瀬家住宅主屋

海瀬家は江戸時代後期から河内村に居を構え、名主や戸長を務めた旧家であり、海瀬家住宅主屋は2023年7月に国の有形文化財に登録されました。沼津市で最も古い住宅と言われ、建築年代は江戸時代末期(築160年以上)と考えられますが、正確な年代は不明です。民俗分野の調査では、ナカイに打ち付けられた大山講の札から、建築は18世紀末にさかのぼる可能性(築220年以上)があるとされています。
この海瀬家住宅主屋は、代々柑橘栽培を営んできた海瀬家の歴史と地域の文化を反映した伝統的木造建築で、堅牢な構造と機能性を備えています。内部には往時の生活空間が残されており、西浦地区の文化を物語る重要な文化遺産となっています。